
コーヒーを愛する皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
「WHITE COFFEE 定期便」と一緒にお届けしている、ショートストーリー【私とコーヒーの物語】のご紹介です。
今回は、二十一杯目「カーネーション」です。
ちょっとだけ他のことを忘れて、ほんのりくつろぎながら読んでいただけたら嬉しいです!
二十一杯目「カーネーション」
母が、病を患った。
その報告を受けた時、とても怖く、ひたすら怖く、世界が色褪せ、光が消えたように感じたのを覚えている。
「大丈夫だって〜。母さん、強いから!病気なんて笑いとばしちゃうよー。」
母はそう言ったものの、父も、兄も私も、家を空ける日が極端に減っていき、なんとか今という瞬間を、未来を、繋ぎ止めたくて、母から離れられない日々が過ぎて行った。
そんなある日、母が話があると家族を集めた。
「あのね、
お願いだから、いつも通りに生活して。
…母さんがどうなったって、
あなた達には笑って生きてほしい。
今しかできないことを、
精一杯楽しんでほしい。
そういう普通の日々が、
母さんにとっての〝最高〟なの。
お願いだから…。」
涙目の母の懇願に、私たちは、各々の〝普通の日々〟を精一杯過ごす決心をした。
私が幼い頃、よく喫茶店に連れて行ってくれた母。
母はアイスコーヒー。兄と私はメロンクリームソーダ。
母の病気がわかると、以前よりも頻繁に家族で通う場所となった。
その時間は温かく、切なさを伴う。
それでもその記憶は、わたしの、私たち家族の、大切な大切な宝物だ。
それから母は、医師もびっくりするような回復を遂げた…と、いったら最高だったのだが、5年後に静かに帰らぬ人となった。それでも、弱っていく中でも笑い、最期の瞬間まで〝母〟だった。
「人生、楽しんだ人の勝ちなんだから!」と、笑い、人生を謳歌した母。アイスコーヒーを嬉しそうに飲む母。その美しい光景に、悲しみよりも愛を、感謝を伝えることの大切さを、最期の瞬間まで教えてもらった。
母の日。
母が愛したカーネーションの花束とアイスコーヒーを手に、お墓に向かう。
父と兄と「最高の女性だったよね。」と、笑い合っていると、
「そうでしょ〜。母さんって、本当にいい女なの。」
少し照れた母の優しい声が、初夏の爽やかな風にのって聞こえたような気がして、また笑った。
奇跡って、もしかしたら、笑って過ごせる今というこの瞬間なのかもしれませんね。
色んな記憶の片隅に残る風景、香り。あ〜…最高な女性だなあ。ちょっと違いますが、文句よりも感謝を!って、よく先生が言ってたのを思い出し、ほっこりしてしまいました。
ではでは…今後とも「WHITE COFFEE 定期便」をよろしくお願いいたします☕️
前回のショートストーリーはこちらから


WHITE COFFEE 定期便 2025年5月号でお届けした、ショートストーリー【私とコーヒーの物語】 をぜひお楽しみください!