
コーヒーを愛する皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
「WHITE COFFEE 定期便」と一緒にお届けしている、ショートストーリー【私とコーヒーの物語】のご紹介です。
今回は、十一杯目「紫陽花」です。
ちょっとだけ他のことを忘れて、ほんのりくつろぎながら読んでいただけたら嬉しいです!
十一杯目「紫陽花」
梅雨が近づくと、祖父母を思い出す。
祖父の家に泊まりに行くと、きまって朝は近所の喫茶店にモーニングに行った。
コーヒーと銭湯をこよなく愛し、糖尿病を患いながらも、お酒とタバコを最期までやめず「悔いはなし!」と、この世を去っていった祖父。
遊びに行くと、向日葵のような笑顔で迎えてくれた祖母。
両親が不仲だった私に、愛を注ぎ、枯れそうな心を支えてくれたのは間違いなく2人だった。
喫茶店で、ゆで卵の剥き方を指南し、銭湯のマナーを徹底的に教え込んでくれたのも2人だった。
2人はよく、口喧嘩をしては冗談を言い合っていた。
2人が大好きだった。私の中の温かな記憶の大半をしめる思い出達。
紫陽花を愛した祖父母。
大人になり地元を離れた私は、恋をし、結婚をした。
次の帰省を心待ちにしている時に、母から、祖父が亡くなったと電話があった。
その瞬間から、私は、「じいちゃん、おいていかんでよ…。」と、何度も何度も泣いた。
まるで子供に戻ったかのように。
部屋に飾った紫陽花が目に入るたび、涙が溢れ、思い出から逃げ出せなくなった。
お通夜が終わり、お葬式を迎える頃には、自分が今立ってる場所がどこなのかわからない程、憔悴しきった。
お葬式。祖母が叔父に連れられて入ってきた。
痴呆が始まり、自分の子供達の事さえ思い出せなくなった祖母。
彼女は、ぼんやりと遺影をみつめ、庭に出て行った。
後を追いかけると、裸足で庭の紫陽花をつんでいた。
紫陽花をつみ、祖父の手元に置き、少女のように微笑んで言った。
「すすむさん、今年も紫陽花が咲いたわよ…」
優しく、恥ずかしそうに微笑む悲しい瞳。その瞳を見た瞬間、また涙が溢れた。
その数年後、祖母が他界したのは、同じように紫陽花の咲く季節だった。
幼い頃は大嫌いだったコーヒーを飲みながら、私は、温かい思い出たちに思いをはせる。
そして話しかける。
〝お元気ですか?じいちゃん、ばあちゃん、今日も仲良くケンカしてますか?〟…と。
…泣きました。涙でコーヒーが飲めないほどに😭
このショートストーリーは、最高のラブストーリーだな…と。
自分も幼い頃、大人がなんでとんでもなく苦く、どすくろい飲み物を飲むのか謎でした。大人になってその魅力の奥深さを知り、世界が広がり、多様な個性を持つコーヒー豆に出会うたびに嬉しくなってしまいます。
深く、心に響く今回のショートストーリーには、個人的には、ほろ苦さをベースにした甘く爽やかな酸味を余韻に残すコーヒーを合わせたいなと感じました。
皆様とご一緒に、様々なコーヒーと出会えることを楽しみにしています!
ではでは…今後とも「WHITE COFFEE 定期便」をよろしくお願いいたします☕️
前回のショートストーリーはこちらから


WHITE COFFEE 定期便 2024年7月号でお届けした、ショートストーリー【私とコーヒーの物語】 をぜひお楽しみください!